無機質で有機的で無機的と言う、非常に面倒くさいバンドによる中期屈指の名曲は、密室感がクセになるねえ
”Other Moments” by Wire
From The Album "Manscape"
イギリスでパンクの嵐が吹き荒れたすぐ後に、ロンドンから出現した4人組バンド、Wire。コリン・ニューマン、グラハム・ルイス、ブルース・ギルバート、ロバート・ゴートゥベッドにより結成。当時彼らは20代そこそこだった。
パンク、特にセックス・ピストルズからの影響でそれまで触ったことも無い楽器を手にしてたどたどしくも自由にアグレッシヴに演奏をはじめた後発のパンクやポスト・パンクのバンド群の面々は、色んな形で自由に自身のサウンドを鳴らしていった。
そんな個性的なバンドが限りなく多いポスト・パンク期のバンドの中でも、かなり異質な個性を持ったバンドがWireだった。彼らは「ロックでなければ何でもいい」「音楽よりもノイズに興味があるノイズ・ワーカー」とか嘯きながら、独自のサウンドをクリエイトしていった。殆ど楽器演奏が出来ない状態で、荒削りを超えた稚拙な演奏。しかし、それに余りある大胆な発想と、常識を逸脱した自由度の高い表現と様々な実験によってサウンドを具現化していったのだ。初期にEMIから"Pink Flag"、"Chairs Missing"、"154"という3枚のアルバムを残して1980年に活動を休止している。
Wireと言えば初期の3作と言う人が多い。確かに革新的でアーティスティックで稚拙なサウンドのインパクトは凄いって事は否定しないし、実際好きな作品群ではある。しかし、僕としては活動休止以降の彼らの作品に魅力を感じる。
活動を休止した5年間をソロ・ワークや芸術活動で思い思いに過ごした後の1985年にバンドは再結集、翌年に"Snakedrill EP"で完全復活を果たす。7年振りにリリースしたアルバム"The Ideal Copy"は、エレクトロニクスを多用したダンサブルなアプローチであり、賛否両論を巻き起こしたが、これは彼らの5年間のソロ・ワークの結晶とも言える作品でもあったのだから、これを批判するのは野暮って言うものだ。好きかどうかは別として...。
それ以降も、デジタル・テクノロジーを多用したサウンド・アプローチで作品を発表する。そのサウンドは、デジタルでポップでメロディアスでさえある。しかし、その裏にはバンドでレコーディングしたサウンドを解体して抜き差ししてノイズの断片の再構築を繰り返して仕上げ、サウンドの密度を高めるといった異常に面倒くさいアプローチを行っている。その作業によって、ポップでメロディアスでありながら、ひんやりとした密室感と閉塞感がある。そこがタマラナイのだ。
今回取り上げた曲は、そんな再結成後Wireの中でも一番好きなアルバムと言っていい”Manscape”に収録されている。Wire史上、最もポップな作品と称する人もいる。確かに間違いではない。が、このデジタルでカラフルなポップ・サウンドと、より一層冷やかになった閉塞感が、逆にリアルに感じる。サウンド云々よりも、この空気感が息が詰まる程にリアルだ。無機質でありながら有機的に作られ、でも聴感は無機質。実にやっかいな曲を好きになったものだ。歌詞も抽象的なものが多い彼らだが、この曲の歌詞にはいつもグッとくるのだなあ。
ショウビズ界に背を向けながら老獪にリスナーの期待をすり抜け、いい意味で裏切りながら期待以上の作品を作り出す、掴みどころの無い展開の活動を行うこのバンド、僕にとってはいつも雲の上の人達なんだ。
A Bell Is a Cup Until It Is Struck
- アーティスト: Wire
- 出版社/メーカー: Mute/BMG
- 発売日: 2004/03/01
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