川の詩 (Poem Of The River)

音楽、映画、本といったカルチャーから些細な日常までをその日の気分で何となく

あまりにも突然で悲しい別れだった...早世した現代パワー・ポップの才人が残した珠玉の楽曲

"Coming Up Roses" by Owsley

From The Album "Owsley"

2010年4月30日、大変に悲しい出来事が起こった。オウズリーのプロジェクト名で活動していたウィル・オウズリーが亡くなったのだ。亨年44歳という、あまりにも早すぎる死だった。しかもあまりにも悲しい理由だったんだ。

 

The Hard Way

※コレはセカンド・アルバム『The Hard Way』ね

 

オウズリーは、ウィル・オウズリーという人物のソロ・プロジェクトだった。オウズリーの作りだすパワフルなポップ・ソングの数々は、ノイジーで爆発するエモーションはあったが、どこか湿り気と翳りも併せ持っていた。先輩のアメリカン・パワー・ポッパー達からの影響はあまり感じない。とにかくソング・オリエンテッドで、サウンドの方は後から付いてきたものって感じ。つまりナチュラル・ボーン・パワーポップだった。とにかく、メロディ・ラインに関しては間違いなくトップ・クラスの天才だった。

 

米国はアラバマ出身のウィリアム・リース・オウズリー三世は、キャッチーでパワフルなポップ・ソングを作り出した天才ソングライターでありマルチ・プレイヤー。下積み時代にはエイミー・グラントのツアー・メンバーとして活動する傍ら、ミュージシャン仲間とThe Semanticsというバンドを結成している。現在はプロデューサーやエンジニアとして、Counting Crowsとの仕事で知られるミラード・パワーズが相棒だった。かのベン・フォールズが一時在籍し、リンゴ・スターの息子で、後にOasisThe Whoに在籍するザック・スターキーがドラマーとして参加していた事で知られている。1993年にたった1枚のアルバム『Powerbill』を制作するが、アメリカ本国ではリリースされなかった。ここ日本では、ベン・フォールズが一時在籍したバンドとして1996年に発掘再発されただけで、結局あまり話題にはならなかった。そして、The Semanticsは消滅した。

 

そういった挫折を原動力に、オウズリーは様々なアーティストのバック・ミュージシャンとして精力的に活動した。得意なバンジョーやペダル・スティールの腕に磨きをかけ、エイミー・グラント、シャナイア・トウェイン、ヴィンス・ギルといったカントリー系のアーティストのツアーに精力的に参加した。彼が行動を共にしたアーティスト達は、軒並み彼の熱心なプレイに賛辞を送った。ギャラをコツコツ貯めていく。全ては、自分のスタジオを作るためだった。そして、テネシー州グリーンヒルズの自宅にスタジオを構え、自由にレコーディングが出来る空間を手に入れた。そして念願のソロ・アーティストとしてのキャリアをスタートしたのでした。

 

1999年にデビュー・アルバム『Owsley』をリリースしている。盟友ミラード・パワーズがプロデュースを担当、今作でグラミー賞にノミネートされていた。ま、「最優秀エンジニア・アルバム」だったんで、オウズリー自身よりも、ミラードの方が地味に評価されたのですが。2004年には2作目のアルバム『The Hard Way』をリリースします。いずれも天才的キャッチーなソングライティングとパワフルなポップ・サウンドが、一部で話題となりますが、あまりセールスには結びつかなかったのです。

 

その後、オウズリーとしてのアルバム・リリースは途絶えてしまった。2005年に「Psycho / Upside Down」という楽曲をダウンロードのみでリリースした後は、もっぱらセッション・ミュージシャンとして活動していました。しかし、2010年4月に突然帰らぬ人となったのです。元妻との間に二人の子供たちを残して...。

 

彼がセッション・ミュージシャンとして参加していた米国カントリー界の大御所ヴィンス・ギルは、オウズリーとエイミー・グラントとの共作曲「Threaten Me With Heaven」を、彼の死後の2011年にリリースし、グラミー賞のベスト・カントリー・ソングにノミネートされた。ヴィンスは、オウズリーという不世出の才能へのトリビュートであると語った。オウズリーが、いかに熱心で真摯なミュージシャンであったかを物語るエピソードであった。

 

Owsley

※こちらが超名作『Owsley』


Owsley - Owsley - Coming Up Roses - YouTube

 

今回は、オウズリーの1999年のデビュー・アルバム『オウズリー』からの1曲です。アルバムの3曲目に収録されている楽曲”Coming Up Roses”です。実はこの曲は、先のThe Semanticsのアルバムに収録されていた楽曲で、ミラードとの共作曲です。メロディの良さはもちろん、The Semantics時とは比較できないくらいに素晴らしいリ・アレンジが為されていて、全く違う楽曲に仕上がっています。流石の1曲!

 

この名作中の名作アルバム『オウズリー』は、パワー・ポップ祭の恒例コンピレーション・アルバムのシリーズ『International Pop Overthrow』(Material Issueを思い出すねえ)もリリース元で有名な米パワー・ポップ信頼のブランドであるNot Lameを経由してGiantとのメジャー・ディールを受けてリリースされています。完成までに3年以上の長い年月をレコーディングに費やしたというこの作品は、パワー・ポップの文脈にスパっとハマるパワフルなギター・サウンドとキャッチーなメロディを中心としていますが、非常に凝ったサウンドと遊び心が随所に隠された、何度聴いても新たな発見と驚きに満ちた完成度の非常に高いアルバムです。そして何より、彼の作り出すキャチーこの上ないメロディ・ラインはエヴァーグリーンな輝きを放っています。多重録音が為されたヴォーカルもお見事。パワフル一辺倒ではなく、アコースティック、ミディアム、スローまで、フックの効いた展開も素晴らしい作品ですね。

 

不世出の天才でありながら、決して多くの人々の耳に届いたとは言えない彼の楽曲ですが、時代に埋もれさせてしまうのはあまりにも惜しい佳曲揃いです。ウィル・オウズリーよ永遠に...。

 

Owsley

Owsley

 
The Hard Way

The Hard Way