川の詩 (Poem Of The River)

音楽、映画、本といったカルチャーから些細な日常までをその日の気分で何となく

あの大物サウンド・マジシャンの若かりし頃の作品は、シカゴ・パンクに傾倒しながら、NEW WAVE色が濃い!

"Ready Men" by Big Black

From The 12inch Single "Headache"

Rich Man's 8 Track Tape


Big Black - Ready Men - YouTube

 

スティーヴ・アルビニと言えば、NIRVANA、WEDDING PRESENT、 PIXIES、JESUS LIZARD等などなど...といったジャンク~オルタナティヴ系の名盤を数多く手掛けた、プロデューサーでありエンジニアの大御所。そのギャンギャンにノイジーなサウンド・プロダクションから、さぞかしコワモテの方かと思いきや、その実は短髪で黒ブチ眼鏡でインテリジェンスが香る面持ち。彼のユニフォーム的な、黒いTシャツにボロボロなダメージのジーンズ・ファッションは、彼を知る人じゃないと、ちょっと似合わないかも...と思っているかもね。しかし、米国のアンダーグランド・ミュージック界での功績は計り知れない偉大なる人物なのだ。

 

プロデューサーとしても有名だが、ミュージシャンとしても一流な彼は、BIG BLACKRAPEMANSHELLACやPIGFACEといった自身が中心となった数々のバンドでも格段の個性的なサウンドを作り出しているのだ。そのバンド群は全て必聴なのですが、彼が最初に組んだバンドとして、米国ジャンク・シーンに燦然と輝く存在感を放っていたのが、BIG BLACKだった。

 

1980年代初頭に高校を卒業したスティーヴは、ノースウェスタン大学のシカゴ・キャンパスでジャーナリズムを学ぶマジメな学生だった。しかし、彼の音楽志向はあんまりマジメではなかった。まず彼は、敬愛するシカゴのパンク・バンドNaked Raygunを中心としたシカゴのパンク・シーンのファンジンを作製した。ここまではパンク・マニアの黒ブチ好青年止まりだったんだけど。

 

大学在籍中に彼は動き出す。自身のヴォイスとギターとベース、ローランドのドラム・マシーン"TR-606"を使用して宅録を始めたのだった。FELTもそうだったが、革新的なサウンドは、たったひとりの手によってベッドルームから生まれるのだろうか。やはりというか、宅録に飽き足らなくなった彼は、バンドを組もうとメン募のポスターを貼ったところ、彼が敬愛していた前出のNaked Raygunのオリジナル・メンバーだったサンチアゴと、2代目ヴォーカリストだったジェフ・パツェッティが加わり、バンドとしてスタートしています。

 

時は1983年。アメリカでは言わずと知れたマイケル・ジャクソンの「スリラー」が大ヒットしていたあの時代、アンダーグランドではトンデモないバンドが生まれていたんですねえ。アルビニがギターとヴォーカルを、サンチアゴがギターを、ジェフがベース、そしてドラム・マシーンによる単調なビートという、風変わりな編成で繰り出されるヘヴィでジャンクでノイズィーなサウンドは、あまりにも大きなインパクトを与えました。

 

シカゴ・パンクがお里として知られるアルビニ氏ではありますが、そのサウンドは直情的なパンクと言うよりは、むしろ英国New Wave系、例えばKilling Jokeあたりのダークで湿り気のあるヘヴィネスが強く感じられるんですねえ。後にWireをカヴァーした時はやっぱりかあ!と涙ぐんでしまいましたっけ。時を経過するにつれ徐々にサウンドは微妙に変化しますが、自身のスタイルの根っこは決して変えなかったのでした。1987年に解散するまでに9枚のシングルと2枚のオリジナル・アルバムを残していますが、いずれ劣らぬ名作揃いです。

 

解散後、アルビニ氏はプロデューサーとしてアルビニ・マジックを存分に満喫させてくれます。自身のバンドとしては短命に終わったRapemanShellacやPigfaceでも活動しました。サンチアゴは、旧友たちとArsenalを結成、"Little Hitlers"は名曲ですが、あまり長くは活動せずに消滅しています...。


さて、Big Blackは、活動期間がアンダーグランドで短いにも関わらず、凄い曲が多くて参ってしまいますが、今回は1987年のリリースですから、バンドの最後期にリリースされた12インチシングル『Headache』に収録されたこの曲を。この12インチのジャケット・ワークは、ソニック・ユースやザ・フォールのジャケでもお馴染みな、作品を一目見て分かる個性的なイラストで知られる、イギリスはリーズ出身の妙齢のアーティスト、サヴェージ・ペンシル氏が手掛けていますね。

 

Headache

サヴェージ・ペンシル作のジャケ。んんー、すげえなあ、やっぱ。

 

今作でBig Blackのサウンドは見事に完結してしまったのも頷けるサウンドを堪能出来るこの作品、中でもこの曲『Ready Man』は、”俺のカラダはどこをとっても金属だぜ”とばかりに、金属の軋みノイズと化したギター、既にリズムを刻む事を忘れたフリー・フォームなベース、変則パターンを刻みまくるドラムマシーン、これまた金属音と化したヴォイスが混然となった、彼らの集大成と言える名曲中の名曲なのだ。Big Blackの歴史の中でちょっと異質に感じるのは、ありそうで無かったニューヨーク・パンクの乾いたフリーキーなサウンドへ接近している点が興味深いんで、是非。

 

コンピレーション・アルバム『The Rich Man's Eight Track Tape』にも収録されています。この作品は、彼らのアルバム『Atomizer』に、12インチ・シングル『Heartbeat』(このタイトル・トラックがWireのカヴァーだ!)と『Headache』の全曲を収録したモノで、初期~後期に渡ってBig Blackがどういう変遷をしていったかが容易に俯瞰できるスグレモノです。是非。

Headache

Headache

 
Rich Man's 8 Track Tape

Rich Man's 8 Track Tape