川の詩 (Poem Of The River)

音楽、映画、本といったカルチャーから些細な日常までをその日の気分で何となく

わが道をいく長いキャリアのアメリカン・オルタナティヴ系の名バンドは、カヴァーのセンスもわが道を行く。

”Going Underground” by Buffalo Tom

From The Album "Fire & Skill - The Songs Of The Jam"

確かな才能と優れた音楽性や卓越したセンスがあろうとも、必ずしも評価やセールスに結び付くとは限らない。時代に合わない事もあるし、本人たちが成功するのを拒否する事もあるだろう。大きな成功を収めなくても、正当な評価を受けなくても、長らくわが道を踏み外さずに地道に活動を続けているバンドも数多く存在して、多かろうと少なかろうと、熱心なファンの前で演奏を続けている。

5 Albums Box Set

米国ボストンで出身のバッファロー・トムは、1987年の結成以来、不動のメンバー3人で活動するトリオだ。ジャンク、グランジからオルタナティヴに至るアメリカン・ロックの変遷を横目に見ながら、CMJやオルタナティヴ・ロック系ラジオ局では毎回評価を受けるが、商業的な成功は無縁といっていい。

 

彼らの1988年のバンド名を冠したデビュー・アルバムと次作の"Birdbrain”は、Dinosaur Jr.のJ.マスキスがプロデュースとサポート参加で完全バック・アップした。イジワルなメディアは、彼らをDinosaur Jr.の亜流として扱った。その後"Let Me Come Over"、"Big Letter day"、"Sleepy Eyed"といったアルバムを1990年代にリリースするが、大きな成功を収めてはいない。確かに突き抜けた部分や、圧巻の個性は無いかもしれないが、どれも非常にクオリティの高いものだったにも関わらずだ。2000年代に入ってからは地元に戻り、現在も活動している。現時点でのバンドとしての最新作は2011年の"Skins"。コレもいい作品だった。ヴォーカリストのビル・ヤノヴィッツは、Giant Sand~Calexicoのメンバーとの共同作業で渋いソロ作品もリリースしている。

 

Skins

 

彼らのちょっと埃っぽいアメリカン・オルタナティヴ・ロックは、時代にマッチしなかった。ただそれだけだった。それでも彼らは正直多くは無いであろうオーディエンスの前で歌い続ける。

 

アメリカのテレビ・ドラマやテレビ・ショーで度々彼らの楽曲を耳にする。番組の音楽効果の担当者などに隠れたファンも多いのだろうか。などと思う。日本の番組でもよくあるよね、正直セールスはパッとしなけど、テレビのBGMで頻繁に楽曲が使用されるバンド。ファンの番組スタッフが、色んな人に聴いてほしい!とばかりに無理矢理使用しているとか、そんな妄想をしてしまう。

 

さて、本日の気分だったこの曲は"Fire & Skill - The Songs Of The Jam"、つまりザ・ジャムのトリビュート・アルバム。あれだけホメておいてカヴァー曲かよ!って言われるかもしれないが、この曲は見事にバッファロー・トムのサウンドになっているのだ。パンキッシュでちょいエキセントリックな展開の原曲を、ゆったりとしたテンポのノイジーなフォーク風味に味付けしている。つまり、全く原曲と似ていないのだ。

Fire & Skill-Songs of the Jam

”Going Underground”と言えば、ザ・ジャムが1980年にリリースしたシングル曲で、初の全英NO.1に輝いている。オリジナル・アルバムには収録されていない。”Going Undergroumd”を直訳すれば、”地下を行く”ってなもんでしょうが、ポール・ウェラーが込めた意味的には”わが道を行く”って感じでしょうか。バッファロー・トムがこの曲を選んだのは、正に”わが道を行く”自分たちのスタンスを読み取ったかもしれないな、と深読みすると、この曲はバンドにとって結構重要なんじゃないだろうか、と思うのだ。 

Fire & Skill-Songs of the Jam

Fire & Skill-Songs of the Jam

 

 

ゲーム世代の活きの良い電撃パンキッシュ・ジャパニーズ・ロックは歌詞もリアルな”あるある”満載でオモロくて共感アリアリ!

”サブカル女子” byキュウソネコカミ

(From The Album "大事なお知らせ")

 

ニューウェイヴ世代の僕でも、新しいバンドはいつだって気になる。洋楽やUKモノに限らず、若手バンドのサウンドはかなり気になるのだ。元CDショップのマネージャーだったので、お里が知れてしまうが、思わずの青田買いは欠かさない。さすがにヒット・チャートを駆け抜けるものはあまり聴かないが(後になったのはあるけどね)...。メランコリックな味わいや深みはベテランには及ばないものの、好きな音楽を演りたい!音楽で喰いたい!というパワーは、いつも僕をフレッシュな気分にさせてくれる。

 

大事なお知らせ

 

つい先日、メジャー・デビューを果たしたキュウソネコカミは、兵庫県出身の5人組バンド。最新シングル”ビビッた”(この曲も近々取り上げるかもね)で、ビビッと来てしまったひとも多いだろうか。バンド名を見て「窮鼠猫を噛む(きゅうそねこをかむ)」という古いことわざを思い出す。絶体絶命の窮地に追い詰められたネズミは猫をも噛む=窮地に立たされた弱者は強い者に逆襲するという意味。中国の古いことわざで「死して再びは生きずとなれば、窮鼠も狸を噛む」が語源とか。キュウソタヌキカミだった可能性もあるわけね。でも、彼らのバンド名の由来は「ファイナルファンタジー」の装備品から来ているらしい。何だよ~。そういや、アルバムのジャケもファミ通系の人ばっかじゃん(笑)。

 

ウィーアーインディーズバンド!!

チェンジ ザ ワールド(初回限定盤)

 

最近の若手バンドってゲーム世代が多いのかな。”ヒャダイン”もドラクエの呪文だそうだし、”SEKAI NO OWARI”は曲名や歌詞にロープレっぽいファンタジーを感じる。狭苦しい散らかった部屋でゲームにハマって閉じこもり、クリアーしてもちょっと虚しい。ああ、音楽で喰いてえ~!って叫ぶ若者の姿を妄想して思わず笑っちゃう。だって、俺らの時代と全然変わらないじゃん。無かったのはケータイとネットだけ。僕らよりも先輩の時代もそうだった、やっぱリアルな音楽は4畳半から生まれるのかもね。

 

最初に彼らのサウンドに触れたのは、実はこの曲"サブカル女子"。2012年にインディー・レーベルからリリースされたセカンド・アルバム「大事なお知らせ」に収録されている。年齢不明のサブカルチャー好き女子の日常の生態と品格を、SUBWAY(ORGANIZATIONではなく)、IKEAヴィレッジ・ヴァンガード、一眼レフのカメラ、黒ぶち眼鏡の装備、缶バッチ、甘い映画とドラッグムービー(てか精神的にクル映画ですかね)といったキーワードを満載してリアルに叫ぶ。面白い。馬鹿にしているのか?いや、『でも好きさ』と素直ではないラブコールを送っているのもいい。オールド・サブカル男子な僕だけど、サブカルって以前のカテゴリとだいぶ変わったよね。最近のは裏モノばかりで『それってサブカル?』と思ってしまう。手前ミソだが、僕の選んだ女性=現在の妻はサブカル女子だ。宝島やブロス世代だけどね。やっぱ話していて一番楽しいし、肩の辺りを殴られたいし。

 

曲もライヴも痛烈にオモロイこのバンドは、関西出身だからか、既にコミックバンド?というほどにお笑い要素がある。しかし、この笑えるだけではないリアルで激アツなサウンドと、あるあるな日常の風景を切り取った秀逸な歌詞の数々は、友人からは「こんなの聴くんだ?」なんて言われるかも知れないが、絶対的な支持を表明するのであった。いや、マジで。あるあるネタが多いのはレイザーラモンRGの影響下?

 

 

大事なお知らせ

大事なお知らせ

 

 

 

アラン・マッギーが最も愛した天才ソングライターの名曲中の名曲は、冷え切った心を暖めてくれるのだ。

”Walk Into The Wind” by Peter Astor

(From Album "Submarine")

 

今日はえらく寒いです。本当に6月なのか?そんな季節外れに寒い日にはこんな曲が結構気分だったり。 

サブマリン 

ピーター・アスターと言えば、The Loftのメンバーとして、1980年代極初期のCreation Recordsと深く関わった人物。The Loftとしてはシングルを3枚ポッキリ出しただけで解散、新たにThe Weather Prophetsを結成、心機一転のハズが、リリース面で割を食った。デビュー・ミニはナゼかドイツのインディからリリース、デビュー・アルバム"Mayflower"は、CreationとWEAの共同出資レーベルであるElevation Recordsからリリースされるも、間もなくレーベルが閉鎖の憂き目に遭い、2作目の"Judges, Juries and Horsemen"はCreationからリリースされたものの、めでたしとはいかず、メンバーが次々と脱退、シングルを1枚出した後に解散している。何だか割に合わない活動のバンドだった。

 

Elevation Recordsについては、セールスがパッとしない事を理由にWEA側が一方的に契約を切ったってヒドい話もあるが、Creation総帥のアラン・マッギーにしてみれば、彼が関わったアーティストの中で一番愛する面々を送り出したのだ。実際にここから出たのはThe Weather Prophetsと、古くからの友人であるボビー・ギレスピーPrimal Scream、元Orange Juiceのエドウィン・コリンズのソロ・シングル。セールスが順調ならば、盟友エド・ボール率いるThe Timesや、自身のバンドBiff Bang Pow!も出ていたのだろうか...。しかし、そっちにいってたら後のCreationは無かったかも。空恐ろしい妄想だったのでこの辺で。

 

アランがThe Weather Prophets及びピーター・アスターを最高のソングライティングの天才と思っていたのは確かで、彼は初期ベーシストとしてバンドをサポートしたし、ピーターの曲をBiff Bang Pow!名義でコッソリ演っていたりする。ちょっといい話。

 

そんなソングライティングの天才=ピーター・アスターが1990年に初めて出したソロ・アルバムが"Submarine"で、この曲はそこに収録されている。フォークを基調としたアコースティックなサウンドとエレクトロニックな打ち込みサウンドが融合しているが、非常に穏やかで温かみのある曲になっている。寒くてたまらない日には心を温めてくれる。ハーモニカの音が入っているが、クレジットが無いのでキーボードによるものか?イチイチ書かなかっただけかも。

 

ちょっと切ないけど優しい歌詞もサイコー。歌詞中に出てくる「キング・オブ・コメディ」ってあのスコセッシ&デニーロの名作映画から取られているのかな。だとしたら大好きな映画だけに嬉しい。あまり賛同してくれる人はいないけど。パプキンみたに狂信的なまでに好きなものに誠実でありたい、とかね。妄想好きなところは変わらないけど。

 

ピーターはその後ルーツであるフォーク志向を強めたソロ作品や、ハウスっぽいThe Wisdom Of HarryやEllis Island Soundで活動した。それぞれ非常に味わいのある作品ばかりで、彼の天才ぶりが窺えるのであるが、寒い日には間違いなくこの曲がいい。

 

Submarine

Submarine

 

 

生き残れなかったC86系バンド群の中でも指折りの名バンドの隠れた名曲は米国への視線を感じつつ味わう!

”Words On Power”  by Close Lobsters

(From "Headache Rhetoric") 

 

いつだって聴くと甘酸っぱい思いになってしまう曲ってあるでしょう。僕にとってはこの曲がソレ。特にヒモ付きの思い出があるわけじゃあないのにね...。

 

Headache Rhetoric

 

1986年にスコットランドはペイズリーという小さな村で結成された5人組バンド、クローズ・ロブスターズ。バンド名に特に意味は無いらしい。1986年に、英国で一番有名な音楽誌「NME」のオマケに、新人バンドばかりを集めたコンピレーション・カセット・テープ"C-86"が付いた。ここから一躍ちょっとしたムーヴメントが起こり、収録されたバンド群、PRIMAL SCREAMやPASTELS、WEDDING PRESENT、The Bodines、McCarthy等など...はC86系と呼ばれ、次々と人気バンドとなっていった。

 

クローズ・ロブスターズも"Fire Station Towers"という曲が収録されている。何とこのコンピレーションがリイシューされるってんだから、世の中は分からないものだ。 でも、ボーナス・トラックを追加したデラック・エディションって...。

C86 ?デラックス・エディション- (直輸入盤帯ライナー付国内仕様)

C86 ?デラックス・エディション- (直輸入盤帯ライナー付国内仕様)

 

 中でも彼らは、口の悪いUKプレスをしても「C-86のハイプ(旬を過ぎるとこう言われてしまう)が無くても成功したであろう」と言われた程に完成されたバンドだった。ラッキーなデビューだが、やはりモノが違った。彼らといえば、1987年に発表されたデビュー・アルバム"Foxheads Stalk This Land"がまず来るでしょう。ネオ・サイケデリック系のバンドに触発されたという、繊細な響きを持ったアコースティックでジャングリーなテイストの2本のギターを中心に、ドコドコした小気味いいビート、甘酸っぱさいっぱいのヴォーカルとハーモニー、そして魅力的なメロディ・ライン。まさに完璧なアルバム。

 

しかし彼らは2枚のアルバムを残して解散してしまう。デビュー・アルバムの成功でイキオイに乗る彼らは、アメリカ進出をもくろみ、今回取り上げた曲”Words On Power”が入ったセカンド・アルバム"Headache Rhetoric"でアメリカ・デビューを果たす。しかし、かの地での所属レーベル"ENIGMA"の財政難により契約解除に見舞われた不運が災いしたのか、間もなく解散してしまう。来日の予定もあったが急遽中止するという、正に電撃解散だった。(どっかで聞いたような話だ...)。余談ですが、差し替えで来日したのはLA-DI-DA在籍の"HOW MANY BEANS MAKE FIVE"だった。コレもかなり貴重。

 

何でこの曲が切ないのかは未だに分からないけれど、Close Lobsters=Foxheadsとは思ってほしくないな、と思う。彼らが目指したアメリカはどういったものだったんだろう。当時の彼らの思いを考えながらこの曲を聴くと、何だかまた切なくなってしまうのでした。

 

Headache Rhetoric

Headache Rhetoric

 

 

 

ネオアコ史上最高のセンシティヴな名バンドによるメランコリックな名曲は、過去の仲間へのラブレター。

”Silver Plane”  by Felt

(From The Album "Poem Of The River") 

 

僕はFeltが好きだ。今まで生きて来た人生の中で、一番好きなバンドといっていい。ある意味「どうしようもない」バンドである。

 

Poem of the River

 

1979年の英国はバーミンガム近郊の町。熱狂的なトム・ヴァーレイン(The Television)マニアの青年、ローレンス・ヘイワードが自宅のベッド・ルームでたった一人でポータブル・カセット・レコーダーに吹き込んだ"Index"という曲から始まったFeltは、1980年にはギタリストのモーリス・ディーバングとドラマーのゲイリー・エインジを加えた3人組となり、繊細で冷淡なギター・サウンドと詩的な歌詞とメロディ、そしてトム・ヴァーレインの影響を強く受けた、呟くようなローレンスのヴォーカル・スタイルにより、神秘的な魅力を放出していた。10年の活動で10枚のシングルと10枚のアルバムを残して解散している。

 

そんなFeltの中で、一番「どうしようもない」曲がこの"Silver Plane"だ。1987年のリリース。彼らにとっては通算7作目のアルバムで、Creationに移籍してからは3枚目のアルバムとなる”Poem Of The River(邦題:川の詩)”から。Creation移籍を前後して、初期からバンドには不可欠となっていたシャープなギターを鳴らしていたモーリス・ディーバングが脱退してから、新参者キーボーディストのマーティン・ダフィ(現Primal Scream!)を中心としたインストゥルメンタル・アルバムなどをリリースして、傍から見たら混迷している様な気がしていた"Balld Of The Band"以降のCreation初期のFelt。そういったバンドの動きを(無責任にも、あるいは諦観して?)傍観していたローレンス(事実、インスト中心のアルバム群にはクレジットはあるが参加すらしていない)が、元々は彼がベッドルームでたったひとりで始めたバンド、Feltの行く末を思い、あまりにも重い腰を上げたアルバムとして、個人的には非常に重要なアルバム。その中でも、最もメランコリックな曲。ローレンスからマーティンへの擦り寄りとでもいうか、とにかく、後期Feltのあるべきサウンドが一番詰まったと思える曲だ。

 

ローレンス、モーリス共にシャープにトンガっていた初期Feltの楽曲はあまりにも素晴らしく、多くのFeltファンにとっては、いや、僕自身のとってもあまりにも魅力的だ。しかし、僕がFeltの中で一番好きな曲はコレなのだった。思えば25年以上も経過した現在でもソレは変わらないのが自分でも不思議だったり..。

 

この曲に関してローレンス自身が語った文献は当時も見当たらなかったので、果たして本人の意図かは分からないが、↓の歌詞が個人的には心に響くのだ。今でもね。

 

I Never Listened To You We Never Shared.

I Didn't Hear What You Said.

I Didn't Know What You Cared....

Two Years In This Little Room It's Going To Start Suffocation Me. 

 

僕は君の言う事に耳を貸さなかった(フリをした)。僕等に共通点など無かった。君が気にしていたのを知らないフリをした。でも、2年間この小さな部屋で過ごしたら、息が詰まりそうなんだ...。

 

これはロ-レンスからモーリスへの届く事のないラブレターだったのか?だからこそ、初期からのリスナーの心には響くのだろうか...。この曲によって違った展開があったとしたら、Feltはアルバム10枚+シングル10枚で終わるバンドでは無かったかも知れないな、とか思ってしまう。

 

初期Feltを、誰にも馴染めなかった高校時代にひとりぼっちでウォークマンで聴いていた時期を思い出した。やっぱり思い出は切なかった...。

 

Poem of the River

Poem of the River

 

 ※僕はYoutubeの動画を貼ったりはしません。形態はどうあれ、やっぱ買って聴いて味わってもらいたいという思いを込めて!悪しからず。