川の詩 (Poem Of The River)

音楽、映画、本といったカルチャーから些細な日常までをその日の気分で何となく

UKパンク親衛隊員から生まれた最もアーティスティックなバンドが後期に残した感動的な名曲!

"Rhapsody" by Siouxsie And The Banshees

From The Album "Peep Show"

 

ハード・ロックプログレッシヴ・ロックがロックの主流だった1970年代後半のロンドン。アンダーグラウンドではパブ・ロックとニューヨークのパンクに影響を受けたバンド、ダムドやストラングラーズといったバンドが現れた。同じ頃、ロンドンのキングス・ロードで『SEX』というブティックを経営していたマルコム・マクラーレンが、店にたむろしていた少年達のアマチュア・バンドと店のバイト君、そしてカリスマ性のあるジョニー・ロットンに、ブティック経営の相棒ヴィヴィアン・ウェストウッドが作る奇抜で過激な服を着せ、バンドとしてデビューさせた。そして、パンク・ムーヴメントを代表するバンドとなった。

 

そのバンド=セックス・ピストルズが残した功績は、楽器なんて持った事もない人たちが、たった3つのコードを覚えてギターを掻き鳴らせば、その日からバンドを出来るという事だった。もちろん、過激なファッションや攻撃的な歌詞の世界や暴力的な言動やライヴなど、みんな思い思いの部分に惹かれていった。そんな彼らに影響を受けてバンドを始めた人たちは、本当に多い。The ClashBuzzcocks、Magazine、Echo & The Bunnymen、Joy Division、Tom Robinson Band等など...。こういった彼らのパンクのDIY精神を受け継いだバンド達は、ピストルズよりもインテリジェンスでアーティスティックなサウンドを作り出していく。

 

ピストルズの取巻き=親衛隊と言われた人たちは、彼らのファッションや過激さや退廃した世界を愛している感があって、女性(若しくは中性的な人?)が圧倒的に多かった。当時は単なるファッション・パンクスであったかも知れないが、後の音楽活動には非常に強い意志の様なモノを感じた。こういった事実もまた、パンクの重要性を物語っているようだ。クリッシー・ハインド(The Pretenders)、ロバート・スミス(The Cure)、そしてスージー・スーも熱狂的な親衛隊の一人だった。そのスージーが、ベーシストのスティーヴ・セヴェリンとドラマーのバッジーと共に結成したのが、Siouxsie & The Bansheesだった。

Best of (Bonus CD)

 

バンドには、シド・ヴィシャスロバート・スミスといったピストルズ親衛隊出身者が関わった。そうこうしている間にピストルズの解散と共にパンク・ムーヴメントが一気に衰退し、バンド達はパンクに取って代わるものとして新たなサウンドを模索し始め、ポスト・パンクの流れが生まれていった。

 

そういった流れにハマった様でハマって無い、独自の路線を貫いたのが、誰あろうスージー・スーとバンシーズだった。初期こそ荒々しいストレートなパンクを志向していたが、サウンドを進化させるのはいち早かった。妖艶なスージーによる呪術的なヴォーカル、クールで金属質なギター、アフリカや中近東やアジアのトライバルなリズムといった実験的な要素をミックスしたサウンドは、ポスト・パンクの連中よりも早くダークなサウンドを形成した。この個性的なスタイルはゴシック・ロックと呼ばれ、多くの後発のバンドに影響を与えたのだった。

 

バンド名に冠した「バンシー」とは、アイルランドやイギリスに伝わる女の妖精で、人の死を予告する不吉な存在として知られている。しかし、彼女は死を招くのではなく、死を伝えるべく人に伝えるのだ。どんなに遠くに住んでいても、家族の死を予告し、そのために泣く。そのため、彼女の眼はいつでも赤いのだ。決して不吉な存在などではないのだ。


そうこうしている内に実に20年以上に活動で10枚以上のアルバムを残した彼女たちの作品は、どれも個性的で他に類を見ないものだった。今回は、大分すっ飛ばして、最後期と言える1988年にリリースした通算9作目のオリジナル・アルバム『Peep Show』からの1曲"Rhapsody"を。こういった多彩なサウンド・メイキングが為された実にヴァラエティに富んだマジカルな楽曲が詰まった作品の中にあっても、感動的なまでに輝く、バンドの長い歴史の中でも最もドラマティックと言える名曲中の名曲なのです。

 

Peep Show


Siouxsie & The Banshees - Rhapsody - YouTube

 

前作『Through the Looking Glass』が全曲カヴァー(ドアーズテレヴィジョン、イギー・ポップからクラフトワークスパークス、ディズニーまで!)といった内容だったんで、一体どういったサウンドを作り出すのか大変注目されましたが...そりゃ皆んな驚いたねえ。先行シングル"Peek-A-Boo"ではスクラッチやファンク・ビートを取り入れ、多重録音によるスージーのヴォイスやクラシカルなアコーディオンも印象的な、彼ら流ヒップ・ホップ・サウンドを作り出したんだもの。

 

それに続く形でリリースされたアルバム『Peepshow』は、大きな変貌を遂げた問題作であり大傑作なのです。前述のヒップ・ホップはもちろん、カントリーやトラッド、ハワイアンを彷彿とさせる軽やかなギター・サウンド、ヴァイオリン、チェロ、ハーモニカといったクラシカルな楽器を使用した優美で荘厳なサウンド、ライトで実験的なエレクトロニクス・サウンド、そして何より多彩なバンド・サウンドに呼応するかのような表現力豊かなスージーのヴォイスの深みと凄みが素晴らしい。ダークな部分は残しながらも格段に進歩を遂げた、バンド後期の傑作アルバムです。その中でも、特に感動的な1曲が""Rhapsody"なのでした。

 

Peep Show

Peep Show

 

 

Through the Looking Glass

Through the Looking Glass