川の詩 (Poem Of The River)

音楽、映画、本といったカルチャーから些細な日常までをその日の気分で何となく

中島哲也&役所広司で、あの極悪バイオレンスが止まらない劇薬原作をどう料理したのか?

第3回「このミステリーがすごい!」大賞に輝いた、深町秋生のオリジナル長編処女作『果てしなき渇き』は、僕みたいな一般ピープルにとっては、ひどく居心地が悪く、(肉体的にも精神的にも)痛くて、何でこれを読まなきゃいけないんだ!とブツブツ言いながらも、幾多の小説群よりもハイペースで読んでしまった作品(ツマラナイから飛ばし飛ばし読んでいたのではない)。読後には、ドツボにイヤーな気持ちになってしまうという、アンダーグラウンドにしておきたい作品で、ちょっと人にはススメづらいものだった。だけど25万部のベストセラーになったので、古本で買った人を含めるとそれを上回る人々が読んでいるんだよね。

 

果てしなき渇き (宝島社文庫)

 

映画化は不可能だろう...と思っていたら、見事に実現してしまった。もし出来るとしたら、キタナイ部分をカットして、藤島父をヒーローっぽくして、最後には美談にして...ってユルーい感じになるのかなあ、と思ったら、中島哲也監督だってんで、観ないって訳にもいかず、恐る恐る鑑賞しました。

 

『渇き。』(2014年・日本映画)

監督:中島哲也
脚本:中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子
出演:役所広司小松菜奈、清水尋也、妻夫木聡オダギリジョー高杉真宙二階堂ふみ橋本愛中谷美紀...他

渇き。STORY BOOK

 

R15+(15歳未満は鑑賞も入場もダメ、ゼッタイ)です。クスリと未成年の性にまみれた原作を忠実に映像化したらR18+だろうなあ...と思いつつ、一体どんなんなちゃてんのかなあと思いつつ...。

 

<あらすじ的なもの>

元々は刑事だったが、妻の浮気相手に傷害を負わせて懲戒免職となった警備員の藤島は、妻と娘との幸せだった家庭を失い、虚ろに生きていた。ある日コンビニでの大量殺人事件の第1発見者となる。同じ頃、元妻から娘の加奈子が行方不明になっている事を聞かされ、部屋を捜索したところ、覚醒剤を発見する。単独で娘の行方を探し始める藤島だったが、彼女の足取りを追ううち、彼が知らなかった彼女の裏の顔を知る事になる。そして核心に迫るにつれ、巨大組織がらみの犯罪を知る事となり、自身も巻き込まれていく...。

 

・感情移入出来るキャラがいない?

感情移入出来る人物が一人もいない、イイ奴なんて皆無!な原作同様に、映画の方も暴力、恫喝、理不尽、変態、キタナイ、クサイ、ヒドイ、ジャンキー、バカな人たちのオンパレード!サブキャラの人たちなんて、どうしようもないヤツラばっか。世も末だ、という刹那感が漂う。

 

・原作で強烈だった藤島秋弘(映画では昭和)の役所広司が凄い!

娘の居所を探し続け、関係した人々を暴力と暴言で脅しまくる役所広司演じる藤島父のサイテーなキャラは凄い。殴られても撃たれても倒れず、どんなに血ヘドを吐いても、すぐに次の行動を起こす。何でそこまで人間がキライかなあ、ってほどに悪態をつきまくる。そして行動が全て裏目に出てしまう。コンビニの殺人現場に居合わせたのは偶然としても、以降は自分の行動が元でドツボにハマってしまう。その様が滑稽にすら思えてしまう。いつ殺られてもおかしくないが、彼は立ち上がる。生きているかも死んでいるかも知れない娘を助けるために...と思ったら大間違い。その辺はラストの彼の叫びに集約されているのだ。

 

・やはり中島哲也作品には破壊力がある。でもしっかりエンタメ!

改めて、中島哲也監督の手腕に唸るしかない。2時間超えだが、飽きさせる事はない。相変わらずスピード感のある展開に乗っかるまでのタイミング取りが難しいが、乗ってしまえば、あとは常にハイテンションな展開に一気にラストまで行ける。暴力シーンは意外とポップに作られているし、何箇所かしか痛いシーンは出てこない。でもまさか、藤島の理不尽な婦女暴行は、ほぼ原作に忠実だ。オッサン、逆恨みか知らんが、やり過ぎだよ!

 

・原作との相違でちょっとしたナゾと、ホッとした部分も

ちょっとだけナゾな部分としては、原作になかった『不思議の国のアリス』のくだりである。何か意図があったのだろうか?あと、実業家チョウの扱いがあまりにも少なくなっていて、サクッと出てきてサクッと...。原作でもさほど多い出番は無いが、不愉快極まりなかったキャラだけに、ちょっと不思議。しかし、そのためか原作で一番不愉快な箇所、チョウのビデオテープのくだりが無かったので、これには少々ホッとした。ビデオの中身もそうだが、それを見て藤島が...って所は映画にしちゃあマズそう。この映画の唯一の救いでした。

 

・これを見て何故か元気になっちゃうのはおかしいのか?

とにかくエネルギッシュでバイオレンスで極悪な人々による極悪な映画。しかし、何故かこういった作品を観た後には元気が出てしまう。おかしい感情だろうか。所詮僕はフツーの人間、自分よりもサイテーな人を観て、自分の生活も捨てたもんじゃないと思うのだろうか。不幸な境遇人と自分を比較して、「まだマシじゃん」と感じるのと変わらんし、ドロドロの昼ドラを笑いながら観てるのと変わりないじゃん。僕こそがサイテーなんじゃないの。

 

・豪華なキャストがサイテーなキャラの競演!

豪華出演者が、サイテーなキャラの面々を演じている。直線的なオダジョーよりも、ヘラヘラ笑いながらサイテーな妻夫木がイイなあ。車に轢かれちゃったけど、大丈夫だったかなあ...。女子陣は及第点だらけで、突き抜けた人はイナイ。絶賛されている加奈子役の新人小松菜奈ですが、個人的にはそんなにいいかあ?って感じ。少なくとも、加奈子のイメージでは全く無かったです。あ、小松さん本人がどうって事ではなく、あくまでも加奈子としてはって事です。悪しからず。

 

・結局観るべきなのか?

そりゃ、原作時点で気持ちの良いものではなので、原作同様に他人に胸を張ってオススメ!とは言いづらいのですが、このサイテーなパワーとバイオレンスの嵐には圧倒されます。是非体験してもらいたいとは思いますが、ラストにカタルシスが無いのもまた事実だし、後味も決して良くない。心して観賞しましょう。

 

果てしなき渇き

果てしなき渇き

 
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