川の詩 (Poem Of The River)

音楽、映画、本といったカルチャーから些細な日常までをその日の気分で何となく

 ポール・ハギスお得意の群像劇かと思ったら裏切られる、決して交わるはずのない人間達の物語。愛と絶望と癒しのミステリー。

「サード・パーソン (Third Person)」(2014年アメリカ映画)

監督・脚本:ポール・ハギス

主演:リーアム・ニーソンミラ・クニスエイドリアン・ブロディ、ジェームス・フランコオリヴィア・ワイルドキム・ベイシンガー、モラン・アティアス他

 

ポスター A4 パターンB サード・パーソン 光沢プリント

 

クリント・イーストウッド監督”ミリオン・ダラー・ベイビー”と、自身が監督した”クラッシュ”で、2年連続アカデミー脚本賞を受賞したポール・ハギスが監督・脚本を担当した新作映画「サード・パーソン」をディノス・シネマズ札幌劇場にて鑑賞してきた。

 

<あらすじ的なもの>

パリ。ホテルに滞在して作品を執筆するマイケル(リーアム・ニーソン)。かつてピュリッツァー賞を受賞した作家だが、その頃の勢いある文筆は失われていた。彼には妻がいるが、愛人のアンナ(オリヴィア・ワイルド)を同じホテルに滞在させていた。ローマ。アメリカ人のスコット(エイドリアン・ブロディ)が、たまたま立ち寄ったバーで出会った美女と関わり、地下世界へと足を踏み入てしまう。ニューヨーク。元女優であるが、現在はアルバイトでその日の暮らしもままならない生活を送るジュリア(ミラ・クニス)が、画家である元夫(ジェームズ・フランコ)と、息子の親権を争う。

 

 ポール・ハギスと言えば、本作同様に自身が監督・脚本・原案を担当した傑作群像劇『クラッシュ(2004年)』を思い出す。ひとつの交通事故をきっかけに、交わるはずの無かった境遇も人種も異なる人々の人間関係を描いた名作中の名作だ。未鑑賞であれば、間違いなく2回以上観るべき作品だ。きっとハギス・ワールドに魅了される事だろう。

 

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『クラッシュ(2004年)』

 

今作も『クラッシュ』同様の群像劇と思っていたら、見事に裏切られた。今作の登場人物達の物語は、パリ、ローマ、ニューヨークでそれぞれ起こる。その時系列は同じと思われるので、彼らが交わる事は物理的にあり得ない。が、彼らの出来事は、直接的では無く、あくまでも間接的に関わっているように見える。ここに、ハギスの罠があるので、注意して観ておきたい。この作品にどんでん返しを期待するのは野暮というものだ。それぞれに境遇の異なる3組の男女の、愛と信頼と裏切りと絶望と希望を描き出し、そして、何らかの形でそれらは収束する。その核心に関しては、ネタバレになるので、ここでは触れない。

 

映画のタイトルは「3人称」若しくは「第3者」という意味でいいのだろうか。これはどういう意味かというのは本編のラストのプロットを観ると明らかになるのだろう。主人公のマイケルは、ハギス監督自身の姿を投影していると思われる。彼は、この散らばったエピソードを、見事に収束させる。今作には、難しい謎解きはない。途中で気づいてしまう人もいるだろう。でも、過去のハギス作品と同様に、観終わった後の余韻が非常に深みのあるものだった。

 

くたびれた作家マイケルを演じたのは『シンドラーのリスト』のオスカー・シンドラーや、『スター・ウォーズ・エピソードⅠ』のクワイ・ガン・ジン、個人的には一番印象深い作品『マイケル・コリンズ』の主人公を演じ、最近は『96時間』のお父ちゃんで知られるリーアム・ニーソン。その愛人アンナを演じたのはオリヴィア・ワイルド。テレビドラマ『Dr.House』のレミー役で有名で、最近では『ラッシュ/プライドと友情』や『Her/世界でひとつの彼女』で、主役ではないが存在感を放つミステリアスな女優。

 

仕事で出張先のローマに滞在するアメリカ人ビジネスマンを演じるのはロマン・ポランスキー監督『戦場のピアニスト』から『エイリアンvsプレデター』まで、幅広く演じるエイドリアン・ブロディ。ニューヨーク在住の前衛画家にジェームス・フランコ

 

だが、今作で輝きを放っているのは、2人の存在感のある女優だろう。ローマのホームレスのジプシー=ロマ族のミステリアスな女性を演じたモラン・アティアスは、イスラエル出身の女優。さほど出演作は多くないが、ハギス作品『スリー・リバーズ』や、『クラッシュ』の題材をテレビドラマ化した『クラッシュ』に出演している。そして、今作で一番輝いているのは、ミラ・クニス(キュニスとも)だろうか。自身のある行動によって、窮地に立たされて精神が不安定になっている、観ているこっちがハラハラする程に、危うい行動をする元女優を見事に演じている。B級恋愛映画を経て、セス・マクファーレンのテレビ・アニメ『ファミリー・ガイ』(声の出演)、監督作品『TED』では主人公の彼女を演じた。コメディ女優のイメージがある(実際、コメディ顔)が、本作でその殻を破った。が、その後も何だかコメディ作品やアニメ中心にキャスティングされているのが勿体ない。最新作はラナ&アンディのウォシャウスキー姉弟による『ジュピター』の主要キャストを演じるようだ。コレにも期待。

 

ラストのどんでん返しばかり要求してしまう、昨今のミステリ映画ファンには少々物足りないかもしれないが、人間の奥深い感情を抑えたトーンで描いた秀作。心に余韻が残る作品だった。 

 

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